奈良の小さなサロンで、美容師を始めて18年になります。
ヘナ専門店になる前のGraciasは、ヘアカラーも行う普通の美容室でした。おかげさまで地域のお客様に恵まれ、スタッフも少しずつ増えていきました。ただ、忙しくなるほど気になっていたことがあります。スタッフの手荒れが、ひどくなっていたのです。
当時の業界では「スタイリストになれば治る」という空気がありました。でも毎日隣で働くスタッフの手を見ていると、それを「仕方ない」と流すことができませんでした。薬剤を使い続ける限り、根本的には変わらない。そう気づいたとき、サロンのあり方を見直すことにしました。
転機になったのは、一本のクレームの電話でした。
お客様のアレルギー、そしてインドへ
施術後にまぶたが腫れ、頭皮に強い痒みが出たというご連絡でした。原因を調べると、当時使用していたヘナ製品に含まれる化学成分が引き金になっていた可能性がありました。
きれいになるために来てくださったお客様に、被害を与えてしまったかもしれない。その事実が、ずっと頭から離れませんでした。
メーカーに問い合わせると、「人体への使用を前提とした製品ではない」という回答が返ってきました。後から分かったことですが、そのような製品が「天然ヘナ」として流通していることは、業界では珍しくない話でした。
では、本当に信頼できるヘナはどこにあるのか。
調べれば調べるほど、「どこで、誰が、どのように作っているか」が分かる製品がほとんど存在しないことが見えてきました。ならば、自分で確かめに行くしかない。そう決めて、インド行きの航空券を手配しました。
現地で見たもの
インドでは複数の工場を訪問しました。ある工場の倉庫に入ったとき、「For wig」と書かれたラベルの山が目に入りました。その工場は、日本向けにケミカルヘナを大量製造していました。後に調べると、「オーガニック最高ランク」という触れ込みで日本に輸出を続けている会社でした。
ただ、その旅で出会ったのは、そういう現実だけではありませんでした。
出発前からメールでやり取りをしていた工場があり、実際に訪ねてみると、他とは明らかに違うものがありました。そこで出会った人との関係が、今のGraciasの製品につながっています。
その話は、次の章で書かせてください。

2012年、薬剤をすべて手放した
帰国後、少しずつ薬剤への依存を下げていく方針を決めました。なぜそうするのかをお客様に丁寧にお伝えしながら、「化学薬品に頼りすぎない美容」という方向性をサロン全体に定着させていきました。
2012年11月、すべての薬剤をサロンから手放しました。
その後、スタッフたちの手荒れが落ち着いていきました。ヘアカラーやパーマを目的に来てくださっていたお客様の多くは離れました。それでも、この選択は間違っていなかったと今も思っています。
何かを大切にしようとすれば、何かを手放すことになる。その順番を、間違えなかったと思っています。
ヘナを選んだ理由
ヘナを選んだのは、「自然のものだから良い」という理由ではありませんでした。自分で確かめ、信頼できる人と出会い、一緒に作れると思ったから届けられる。その確信が、Graciasというブランドの始まりでした。
このサイトでは、そういう積み重ねを少しずつお伝えしていきたいと思っています。製品の背景にある産地のこと、サロンでの実践のこと。読んでいただいた方が、納得して選べる状態になることを目指して。
── このブランドの、別の話 ──
産地へ行って、素材を決めるまでの話 → インドへ——製品開発の始まり
サロンで使いながら、研究してきた話 → サロンで使い続けるということ